ゴルフクラブの機能を説明するときに、とくにドライバーのNEWモデルが発表されるタイミングで目にすることが多くなった「慣性モーメント」というキーワード。
「グラム立法センチメートル」という単位で表されますが、R&Aが公表している世界共通のルールでは、わざわざ上限の最大数値を5900と設定しているくらい、クラブの機能に大きくかかわるファクターとなっています。
今回は、クラブの選び方を左右するほどの数値、そしてプレーヤーによってはデメリットともなりえる「慣性モーメント」について、詳しくお伝えしていきます。
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慣性モーメントとは?
そもそもは物理学の分野の言葉になります。
簡単に表現すると「物体の回転のしにくさ」を表す数値のこと。
単位は「グラム立法センチメートル」。
「MOI(moment of inertia)」という英語表記のほうが見かける機会が多いかもしれませんね。
そして、ゴルフクラブを語る際に使われる「MOI」「慣性モーメント」は、厳密には「左右MOI」という表現が正しいようです。
共通ルールで決められている5900という数値も、この設定のこと。
クラブ全体をみていくと、他にも「上下MOI」と「軸周りMOI」がありますが、5900という数値はその対象とはなっていません。
今年の新作でテーラーメイドとPINGから慣性モーメントがアピールされたモデルが発売されて「10,000」「10K」という表現がされていますが、それは左右と上下を合計したものなので、ルール上では範囲内、という認識になります。
慣性モーメントとクラブ性能の関係性
物理学の分野で「慣性モーメント」というキーワードを追いかけて探っていくと、最初から専門用語が次々に出てきて、あっという間に原理を理解するステップがストップしてしまいます。
では、ゴルフクラブと慣性モーメントはどのようにかかわってくるのか、簡単に説明しますね。
いちばん簡単な表現は「ミスヒットをしても当たり負けない」というポイントです。
スイング中、適正な軌道でスクエアにインパクトしたとしても、ヘッド(フェース)の芯を外してしまうと、ヘッドの向きに作用して方向性がブレてしまいます。
このとき、左右MOIの数値が高ければ高いほど、「曲がりにくくなってくれる」という原理になるわけです。
ドライバーにとって「曲がりにくい」という機能は魅力的ですよね。欲しい性能としては「飛距離アップ」とともにツートップに入るキーワードですから、カタログ上でのストロングポイントで「高い慣性モーメントゆえの高い寛容性」という記載を目にすることも多いかと思います。
近年のクラブ機能のひとつとして欠かせなくなった「慣性モーメント」
ドライバーで目立つ性能のように思えますが、ゴルフクラブの分野で「慣性モーメント」が着目されたのは、意外にもアイアンが先になります。
さかのぼること40年以上前、PINGがキャビティバックのアイアンを発売したときに、寛容性という概念が認識され始めます。
今では当たり前となったアイアンやウェッジのキャビティ形状ですが、その概念がない時代においては、まさしく画期的。
「マッスルバック」というフラットなバックフェースから、打点裏付近を薄肉化して、生じる重量をヘッド外周周囲に配分するという構造。
これにより慣性モーメントが上がり、ミスヒット時のエネルギーロスや打点のブレを減らしていくという性能は、1980年代に『EYE2』という歴史的な名器を生み出すことにもつながります。
ウッドのカテゴリーでは、30数年前、テーラーメイドに代表される「メタルウッド」の登場が、それを可能にしていきます。
それまでのパーシモンでは不可能だった「中空構造」が可能となり、慣性モーメントは大幅にアップ。
直進性の性能が驚異的に向上したこと。そして、その後チタンヘッドの開発が進んで「ヘッドの大型化」と「軽量化」が驚異的なスピードで進んだこともあり、慣性モーメントの数値は「クラブの革新」という意味でも、欠かせない最優先の機能のひとつとなっていきました。
慣性モーメントのメリットとデメリット
ここまで読んでいただくと、メリットしかないように思われるかもしれませんが、意外な要注意のポイントもあります。
ヘッド体積がルール上限の460CCに達して、ヘッドに採用する素材もチタンだけでなくカーボンやアルミなども登場してきました。
コンポジット(複合)構造も可能になり、慣性モーメントを上げていくことは可能だったはず。
ですが、着目されてはいながら、優先順位は飛距離などの性能と比較すると、開発とアピールは、やや遅れ気味。
そのいちばんの理由、「高慣性モーメント」がもつデメリットは「ヘッド(フェース)の開閉のしにくさ」でしょう。
さまざまなことで共通される認識かもしれませんが、メリットとデメリットは相反するものです。
「ミスヒットしてもヘッドの向きがブレない」というメリットは、フェースをコントロールしたいゴルファーにとっては、「開閉しにくい」「操作性の悪さ」というデメリットになってしまうのです。
具体的な例をお伝えします。
ドローヒッター(右打ちと仮定します)の人は、インパクトでターゲットよりもやや右へ打ち出して、弾道の頂点、もしくは落ち際で左へ戻ってくる球筋をイメージします。
ややインサイドから球をとらえて、フック回転をかける。
戻り幅や曲がり幅に個人差はあるとは思いますが、ここで大事なのは、「必ずフック回転をかける」ということです。
右へ飛び出した以上、フック回転がかからなければ、ターゲットよりもはるかに右への着弾となってしまいます。戻り幅や曲がり幅を大きく想定しているほど、「狙いとのズレ」は大きくなってしまうわけです。
ところが、「高い慣性モーメント」を有するヘッドは、直進性が強い。
やや右へ打ち出した球は、そのままストレートな方向性をたもち、かかってほしいフックがからずに、結果として狙いよりも右に落ちてしまう「ミス」になってしまうのです。
慣性モーメントの性能差を見極めてモデルチョイス
「操作性なんて上級者にかぎった話」「球筋のコントロールなんて」という方もいるかもしれません。
「真っ直ぐ飛んでくれるのに越したことはない」という見方もあるでしょう。
ただ、それだけともいえないのです。
慣性モーメントの機能が向上していくと、「モデルごとの見極め」も大事なポイントになってくるのです。
実は、慣性モーメントの数値はメーカーから公表されていないケースがおおい。
カタログや公式サイトの記載には、必ずスペック表記がされています。ロフト設定や長さ、シャフトのフレックスバリエーションやトルク、シャフトとクラブ全体の重さなどがもれなく記載されていますが、MOIの公式記載があるモデルは極めて少ない。
つまり、「このモデルは慣性モーメントが高い」という見極めが簡単にできないのです。
そうなると、どうなるか。
例えば、いまあなたが使っているモデルの、さまざまな慣性モーメント(左右MOIや上下MOIなど)がスイングやヘッドスピードにマッチしている場合。
方向性の安定感もあるでしょうし、振り心地もよく、ミスヒットへの寛容性にも満足できるモデルになるかと思います。
ただ、ドライバーは毎年のように新しいモデルが発売されています。
あるNEWモデルが大人気で、周囲のゴルフ仲間も買い替えて、しかもイイ結果をだしている。
興味もわくでしょうし、「おれも買い替えてみるか」という気になるかもしれません。
ただし、慣性モーメントの相性までがマッチングしているかどうか、そこは未知数です。
10発中、何発が好結果となってくれるか。
インパクトのタイミングがあったときは真っ直ぐ飛んでくれて飛距離も出るかもしれません。
ですが、少しタイミングがズレたとき、クラブの寛容性が本領を発揮してくれるときに、相性がよくなければ、今までとは違った働きになってしまいます。
結果として、10発のうちのサポート力の確率がどうなるか。
これが、慣性モーメントをベースとして考えたときの「モデルごとの見極め」の重要性になります。
とはいえ、前述のとおり、慣性モーメントや寛容性は未知数のジャンルです。
どのように選べばよいのか。
選び方のポイント
あたらしいドライバーに買い替えるとき、とにかく試し打ちは必須です!できれば、飛距離や方向性、弾道やスピン量などのさまざまな数値も計測したい。
これは、平均スコアやヘッドスピードは関係ありません。
すべてのゴルファーにオススメしたいことです。
そして、もう一点。
新しいドライバーを購入するとき、いまお使いのドライバーの感じが悪くないようでしたら、そのまま手放さないでください!
大げさな表現かもしれませんが、「エースドライバー」として手元に置いておくのです。
そして、練習場やコースで、2本を交互に使ってみる。打ち比べてみる。
とくに、コースでの数ラウンドの使用は、より確実にチェックすることができます。
練習場で数球、数十球と打っていくと、クラブに合わせることもできてしまうので、ナチュラルさを求めるならば、断然コースでの実践比較がオススメです。
自然体のスイングで打ってみて、どちらのほうが心地よく振れるか、そして結果がよいか。
「新しい=優れている」が絶対ではありません。何事も相性は第一です。
まとめ
クラブの機能の進化のスピード感はすさまじいものがあります。
デメリットとしての見方もあった「高い慣性モーメント」ですが、造りの進化があるのも事実です。
実際、今年発売されているテーラーメイドのモデル『Qⅰ10』では、「高慣性モーメント」をアピールしているのに、PGAツアーのトップクラスに使用者がいるくらいです。
飛ぶドライバーが欲しいのは事実ですが、アマチュアの我々にとっては「曲がらない」性能のほうがありがたい。
「調子が悪いから飛ばない」よりは、「調子が悪いから真っ直ぐ飛ばない」ほうが多いですし、スコアに直結しますからね。
これからも、増えてくるであろう「慣性モーメント」が高くて、そして「デメリットがすくない」モデルたち。
続々と登場してくることを期待しましょう。
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